"還暦祝いには赤いチャンチャンコ"という決まり事は、いつ頃から始まったのでしょか?
図書館で多くの文献から調べだして分かったことは、頭巾にチャンチャンコそして足袋、おまけに座布団などすべて赤づくめのものを身にまとうのは本来、「米寿の祝い」のスタイルであることです。
米寿とは、米の漢字を分解すると八十八となることから88歳のお祝いです。
『人生儀礼事典』によると、「新潟県朝日村では、米寿に赤い袖無しの着物や頭巾を身につけ、子や孫を呼んで祝うといい、神奈川県平塚市では子供たちがお祝いをしてやるもので、餅をつき赤飯を炊いて家で祝うものだという。また、米寿の祝いはいちばん盛大に行うもので、年祝いをする人の子供たちを集めて祝うが、このときは赤い頭巾、赤いチャンチャンコ、赤い着物が贈られ、これを着て子供たちとともに三島神社にお参りに出かけ、帰ってくるとみんなを集めて一杯飲んでお祝いをする。」
そこに掲載の白黒写真では、かなりのお年寄りが頭巾とチャンチャンコを着て、宴席で笑っています。キャプションは、「米寿には、赤い袖無しの着物、頭巾姿で親族の祝いをうける(三重県鳥羽市神島)」とあります。
小学館 人生儀礼事典 2000年4月1日発行
『関東の祝事』でも、米寿について次の記載があります。
「年祝いのなかでもとりわけ盛大なのが、八十八歳の米寿の祝いである。一般には八十八の祝いと呼ばれているが・・・中略・・・この米寿の祝いの謂われも米の字からきたといわれる。
米寿の祝いには、赤い頭巾(俗に大黒頭巾ともいう)・チャンチャンコ・座布団・足袋などすべて赤づくめのものを身にまとい酒肴で祝う・・・後略。」
明玄書房 関東の祝事 昭和53年1月10日発行
『「還暦」に赤いちゃんちゃんこはなぜ?』というそのものズバリの題名の書籍があります。
以下はその中の記述です。
「還暦には「赤いちゃんちゃんこ」を着て、赤い頭巾をかぶる習慣がありますが、それはどこからきたのでしょうか?
人間は「火生土」より、火から誕生しました。五行配当では人間は土気です。火はまさに赤い色。もう一度生まれた姿になるには、赤い色を身につけなくてはならいと考えたのでは、と思います。」
中略
ちゃんちゃんこは袖のない上着ですが、袖なしの形は何を表しているのでしょうか?
女性の着物のほうがはっきりとわかりますが、未婚のときに着る着物は長い袖の振袖、結婚すると留袖になり、袖丈はおよそ半分となります。それが還暦のときには袖なしとなっていきます。
京都の老舗の呉服商のかたから伺った話ですが、
「仏様、ご本尊様には脇侍(きょうじ)がいらっしゃいます。脇侍とはつまり、お助けする意の両袖の意味です。若いときの振袖というのは、それほど大勢のかたがたのお力を借りて生きているということです。結婚すると着物の袖は短くなります。それは大人になり自分で生きるという証でしょう。ゆえに、還暦のかたにお袖のあるものでは失礼にあたります。」
講談社+α新書 「還暦」に赤いちゃんちゃんこはなぜ? 2008年8月20日発行
あの赤づくめのスタイルは当初は米寿の祝いのものでしたが、人々のさまざまな思いが重なり、いつの間にか還暦のお祝い用に取って代わったものと思われます。



